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大阪地方裁判所 昭和37年(レ)262号 判決 1965年10月25日

控訴人 藤井清之助こと 藤井正一

被控訴人 折本権八

右訴訟代理人弁護士 井上秀三

当事者参加人 田中藤一

主文

一、参加人の本件参加申立を却下する。

二、本件控訴を棄却する。

三、控訴費用中、控訴人と被控訴人との間に生じた分は控訴人の、参加によって生じた分は参加人の、各負担とする。

事実

一、控訴人は、「原判決を取消す。控訴人と被控訴人間の吹田簡易裁判所昭和三六年(ト)第三一号債権仮差押事件について、同裁判所が同年一〇月一二日なした仮差押決定を取消す。被控訴人の本件仮差押申請を却下する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は、「本件控訴を棄却する。控訴費用は控訴人の負担とする。参加人の請求を棄却する。参加によって生じた訴訟費用は参加人の負担とする。」との判決を求め、参加人は、控訴人と同旨(但し、訴訟費用の点を除く)及び「参加によって生じた訴訟費用は被控訴人の負担とする。」との判決を求めた。

二、被控訴代理人は、本件仮差押申請の理由及び参加人の主張に対する答弁として次のとおり述べた。

(一)  控訴人は、藤井清之助名義で、訴外折本憲一に宛てて、金額四三、〇〇〇円、満期昭和三三年一一月二三日、支払地及び振出地大阪市、支払場所株式会社富士銀行立売堀支店、振出日昭和三一年一〇月二四日という約束手形一通(以下本件手形という)を振出し、同訴外人は、昭和三一年一一月三日これを被控訴人に裏書譲渡した。被控訴人は、右手形を満期日に支払場所に提示して支払を求めたが拒絶され、現在その所持人である。

(二)  そこで、被控訴人は控訴人に対して、右手形金の支払を求める訴を提起しているが、控訴人は他にも債務を負担しており、債権者の執行に備えて財産を隠匿している現状であって、執行可能なほとんど唯一の財産は控訴人が第三債務者に対して有する金四三、〇〇〇円の供託金取戻請求権(大阪法務局昭和三五年(金)第三一九七〇号、以下本件供託金債権という)のみである。そして、右債権も控訴人が他に譲渡その他の処分をする虞れのあることが明らかなので、被控訴人は吹田簡易裁判所に対し、本件手形金債権の執行を保全するため本件仮差押申請をなし、昭和三六年一〇月一二日右仮差押決定を得たが、右決定は相当であり、いまなおこれを維持する必要があるから、その認可を求める。

(三)  控訴人主張の本案訴訟について、その主張のとおり被控訴人敗訴の判決があったことは認めるが、被控訴人の控訴により、現在大阪地方裁判所昭和三七年(レ)第九七号事件として審理中であって、第一審における被控訴人の敗訴をもって本件手形金債権の不存在を即断するのは失当である。控訴人主張の抗弁事実は否認する。

(四)  参加人は、本件仮差押決定が第三債務者たる国に到達した昭和三六年一〇月一三日より後の昭和三九年四月一日に本件供託金債権を控訴人から譲受けたもので、右譲受をもって被控訴人に対抗できないから、参加人の主張及び参加の理由は失当である。

三、控訴人は、右主張等に対し、答弁及び抗弁として次のとおり述べた。

(一)、答弁

被控訴人主張の事実中(一)は否認する。本件手形は被控訴人の偽造にかかるものである。このことは、本件仮差押の本案訴訟たる約束手形金請求事件(吹田簡易裁判所昭和三六年(ハ)第五六号)について、昭和三七年四月五日被控訴人敗訴の判決がなされた事実に徴しても明らかである。同(二)のうち控訴人が被控訴人主張の本件供託金債権を有することは認めるが被控訴人が保全の必要性について主張する事実については争う。

(二)、抗弁

仮に本件手形が控訴人の振出したものだとしても、該手形の満期は昭和三一年一一月二三日であるところ、被控訴人においてこれをほしいままに、昭和三三年一月二三日と変造したものであるから、控訴人は手形法第六九条により原文言に従い責任を負うのである。

従って、被控訴人の本件仮差押申請のときはすでに本件手形の満期たる昭和三一年一一月二三日から三年を経過しているから、控訴人の振出人としての責任は時効によって消滅しており、控訴人は本訴において右時効を援用する。

(三)、以上のとおりであるから、本件仮差押申請には被保全権利も保全の必要も存しないというべきである。

四、参加人は、その主張および参加の理由として次のとおり述べた。

参加人は、本訴係属中の昭和三九年四月一日控訴人から本件仮差押決定の被差押債権である本件供託金債権を譲受けたものであり、従って右仮差押決定が認可されると右債権の行使が侵害されるので、民事訴訟法第七三条、第七一条前段、後段により被控訴人を相手方として本件訴訟に参加する。参加人の主張は控訴人のそれと同一である。

五、疎明≪省略≫

理由

第一、まず、参加人の参加申立の適否について判断する。

本件参加の理由は、参加人は本訴係属中の昭和三九年四月一日控訴人から、本件仮差押決定の被差押債権たる本件供託金債権を譲受けた者であり、従ってまた本件仮差押決定が認可されれば右債権の行使が侵害されるので、民事訴訟法第七三条、第七一条前段、後段により被控訴人を相手方として本件訴訟に参加するというのである。右のように当事者の一方たる被控訴人のみを相手とする同法第七一条の参加申立の適否については問題であるが、この点は暫くおき、本件参加の申立は以下の理由により却下すべきものである。まず、同法第七三条、第七一条後段の参加の理由については、参加人は本件仮差押決定の被差押債権の譲渡を受けた者に過ぎないから、これをもって本件訴訟の目的たる権利を譲受けた者とはとうてい解することができず、右理由による参加は不適法である。次に同法第七一条前段の参加の理由については、参加人がその主張のように本件仮差押決定の被差押債権である本件供託金債権を譲受けた者であるということのみでは、直ちに参加人が同法第七一条前段の「訴訟ノ結果ニ因リテ権利ヲ害セラル者」にはあたらないというべきであるから、右理由による参加も不適法である。のみならず、参加人の参加の趣旨は、単に原判決及び原決定の各取消並びに本件仮差押申請の却下のみを求めるが、同法第七一条の参加は「当事者トシテ」参加するものであって、第三者において債権者の権利を否認しまたはこれと矛盾する独自の仮差押命令を申請して参加すべきものであるから、本件参加申立はこの点においても不適法たるをまぬがれない。したがって、特段の事情のうかがわれない本件においては、本件参加申立を同法第六四条による補助参加の申立と解することもできないから、結局、本件参加申立は不適法として却下すべきである。

第二、次に、被控訴人の本件差押命令申請の当否について判断する。

(一)、被保全権利の存否について。

原審における証人岡田正一の証言及び本件弁論の全趣旨により一応真正に成立したと認められる甲第一号証(本件手形。控訴人はその満期が変造されている旨主張しており、なるほど、同号証中の満期は、「昭和三一年一一月二三日」とあったのが「昭和三三年一一月二三日」と訂正されていることが認められるけれども、その上部に控訴人の訂正印が押されているから、反証のない限り、振出人たる控訴人においてその意思にもとづき訂正したものであると一応推認すべきである)本件弁論の全趣旨を合せると、被控訴人主張の事実を肯認することができる。右認定に反する当審における同証人の証言は措信し難く、他にこれに反する証拠は存しない。

次に、控訴人の抗弁について判断すると、本件手形の満期が昭和三三年一一月二三日であることは前認定のとおりであるから、本件仮差押命令を発した昭和三〇年一〇月一二日当時、いまだ三年の消滅時効期間が経過していないことは明らかであり、右抗弁は失当だといわねばならない。

(二)、保全の必要性について。

弁論の全趣旨及び≪証拠省略≫によると、被控訴人が保全の必要性について主張する事実を認めることができる。右認定に反する証拠はない。右事実によると、本件仮差押の必要性を肯認するに足りる。

第三、以上のとおりであるから、本件仮差押申請を認容した本件仮差押決定は認可すべきであり、従ってこれと同趣旨の原判決は正当であるといわなければならない。なお、付言するに、本件訴訟の係属中、控訴人は昭和三九年四月一七日大阪地方裁判所において破産宣告を受け、その破産管財人柳瀬宏が本件訴訟を受継したが昭和四〇年四月一五日破産廃止となり一旦訴訟手続は中断したが、当裁判所の口頭弁論期日の告知による続行命令の送達により右中断は解消したこと(被控訴人に対しては同年七月二三日、控訴人に対しては同月二四日)が記録上明らかである。そこで、右破産宣告の効果として本件手形金債権は破産債権となり(破産法第一五条)、他方、本件供託金債権は破産財団に属する財産となったので(同法第六条)、本件仮差押は破産財団に対してはその効力を失った(同法第七〇条第一項)わけであるが、右破産廃止によりその効力を回復したものと解するのが相当であり、当裁判所は、控訴人を当事者として本訴について判決すべき筋合である。

第四、よって、参加人の本件参加申立を却下し、控訴人の本件控訴を棄却し、控訴費用の負担について民事訴訟法第八九条、第九四条、第九五条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 幸野国夫 裁判官 萩原金美 伊藤瑩子)

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